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2021.3.5

原付免許取得率が全国上位の県 共通する要因は?

●都道府県別に人口ごとの原付免許の取得者数(取得率)を割り出した。

●山梨県、和歌山県、鹿児島県、熊本県、奈良県が上位を占めていた。

●山梨県を例に、なぜ原付免許の取得率*注1が高いのか理由を探った。

原付免許の取得率の高さにはどんな理由があるか?

原付免許の取得率の高さにはどんな理由があるか?

原付免許取得率が日本一の都道府県は?

原動機付自転車(原付:50㏄以下)は、運転免許が必要とされる最も初歩的なパーソナルコミューターだ。生活に欠かせない乗り物として根強い人気があり、現在、全国で約510万人*注2の足として使われている。
原付免許を取得しようとする人は、普通免許などの上位免許はとりあえず不要だが、自転車よりも楽で機動的、なるべく安価で気軽に使える移動手段がほしいという人たちだ。そうした人は、どれだけいるか。2019年の1年間でみると、全国で9万2,963人*注3となっている。

*注1:ここでは、生産年齢人口(15 ~ 64 歳)1 万人当たりの原付免許取得者数を「原付免許取得率」としている。
*注2:総務省の「軽自動車税に関する調」より、原付一種の賦課期日現在台数は510万3,395台(2019年7月1日現在)。
*注3:ここでいう原付免許の取得者数は、警察庁の「運転免許統計」(令和元年版)より、原付免許の新規交付件数および併記交付件数を足した件数を、便宜上“取得した人の数”とみなしている。

 

統計からは、都道府県別の原付免許取得者数がわかるので、それぞれの取得者数を、各都道府県の生産年齢人口(15~64歳)1万人当たりで見たところ、2015年から2019年までの5年間について、次の表に示した結果となった(2015~2018年は10位まで掲載)。
最新の2019年でみると、原付免許取得率の第1位は和歌山県で、1万人当たり37.1人。

●原付免許取得率の都道府県ランキング(2015年~2019年)
002_原付免許取得率の都道府県ランキング(2015年~2019年)

ただし、調べた5年間を押しなべてみると、山梨県が3回トップに立っており、2015年の1万人当たり50.2人は、5年間で最も値が高かった。原付免許取得率の日本一は、和歌山県と山梨県が競り合っているような状況だ。

都道府県で異なる原付免許の受験環境

前頁の結果を見れば明らかなように、原付免許取得率のランキングは、調べた5年間について、山梨県、和歌山県、鹿児島県、熊本県、奈良県の5県で不動の上位が占められている。
取得率に影響を与えるのは、地域ごとの気候、地形、公共交通機関の利便性など、さまざまな要因があるだろう。北海道、東北、北陸地方など、寒冷地や豪雪地帯の免許取得率が低いことは、明らかな傾向として順位に表れている。
そして、ほかにも考えられる要因として、都道府県によって原付免許を取得しやすい環境が整備されているかどうかということが考えられる。言うまでもなく、運転免許試験そのものの水準は、全国で同一のものだ。しかし、試験を受けられる場所(箇所数)や、試験の実施日(曜日・回数)、免許を取得する際に義務付けられている「原付講習」がいつどこで受講可能かなど、都道府県によって実施体制は異なる。免許希望者からみた原付免許の“受験環境”は、住んでいる地域によってさまざまなのだ。

原付の受験環境は都道府県によって異なる?

原付の受験環境は都道府県によって異なる?

一般的なイメージとして、原付免許を取得する場合、運転免許試験場を訪れて学科試験を受け、合格したら原付講習を受けて免許証が交付されるという流れがある。しかし、都道府県に置かれている運転免許試験場の数は少ないため、試験場から遠い場所に住んでいる受験者にはアクセスがたいへんだ。また、試験は平日に行われるため、会社や学校を休んで出向くことになり、気楽に足を運べるものではない。せめて最寄りの警察署や自動車教習所で試験が受けられるなら、あるいは土日に試験が受けられるなら、受験の負担は軽くなると感じる人は多いだろう。
原付免許の取得率が高い山梨県、和歌山県、鹿児島県、熊本県に共通しているのは、運転免許試験場以外に、警察署でも原付の試験が受けられるという点だ。また、原付講習は最寄りの自動車教習所で受講できるというのもこの4県では共通している。
全国の原付免許取得の手続きを調べてみると、警察署で試験を実施しているのは20府県あり、原付講習を自動車教習所などで実施しているのは27府県あった。

●都道府県別・原付免許の試験実施場所および原付講習の実施場所(M.I.調べ)
004_都道府県別 原付免許の試験実施場所および原付講習の実施場所(M.I.調べ)

*注1:会津方部、いわき方部、相双方部の3方部がそれぞれ指定する自動車教習所で原付講習を行う。
*注2:離島の原付練習場で行う。
*注3:県交通安全協会が実施する。

山梨県では原付免許を県内14カ所で受験できる

たとえば山梨県の場合、原付免許の試験は県総合交通センター(運転免許試験場)と県警察本部運転免許課都留分室の2カ所に加え、県内12の警察署でも実施している。運転免許試験場と都留分室は毎週水曜日、警察署では第1・第3火曜日に原付免許試験を実施している。また原付講習は、県内16の自動車教習所で行っている。下のフローにあるように、免許希望者は自分の都合に応じて選択し、運転免許試験場または最寄りの警察署で試験を受けることができる。県民からすれば、免許取得を身近にできるありがたい行政サービスといえそうだ。

●山梨県の原付免許の受験フロー
005_山梨県の原付免許の受験フロー

山梨県の原付免許取得率が高い要因について、県警察本部交通部運転免許課では、「本県では公共交通機関が少ないため、生活の移動はマイカーに頼っている面があります。原付もそうした事情によって、県民の欠かせない足なのです。原付免許の取得は、ほとんどが高校生によるものなので、通学のためにどうしても原付が必要という、本県地域の実情があるのだと思います」と話す。
また、「昔にさかのぼると、本県では原付免許の試験はそもそも警察署で行われていたもので、あとから運転免許試験場でも受験できるようになって、免許証も即日交付になり、便利になったというのが経緯です」という。
その上で、「県内には、始発の鉄道に乗っても試験場の受け付け(朝9時)には間に合わないエリアがあります。そうした場合、最寄りの警察署で受験できるのはたいへん便利だと思います。ただ、試験に合格しても、警察署での手続きだと免許証の交付まで3~4週間かかってしまう不便さはあります。制度をよく理解していただいて、自分に合った方法とスケジュールで試験に臨むことをお勧めしています」と話していた。

受講者に配慮して土日祝に原付講習を実施

山梨県の原付講習は、一般社団法人山梨県指定自動車教習所協会に加盟する16の自動車教習所によって実施されている。南アルプス市にある山梨自動車学校を訪ねた。
同校では繁忙状況をみながら月に2~3回、不定期に原付講習を行っている。

「原付講習」が教習所で受けられる

「原付講習」が教習所で受けられる

校長は、「受講者の利便性を考えて、土曜、日曜、祝日のいずれかに原付講習を行っています。受けにくるのは、8割がた高校生で、1年間で約100人が受講しています」という。とくにゴールデンウィークから夏休みにかけ、高校生が免許を取得するラッシュ時には、講習の予約がなかなか取れない状況になるという。
「山梨の原付免許取得率が高いのは、高校生がたくさん乗っているからだと思います。もちろん都会に比べたら実数は少ないでしょうが、乗っている割合は高いと思います。本校では原付講習だけでなく、近隣の高校の要請を受けて、生徒を対象にした原付安全運転講習を年に4回開催しています。年間200人くらいの参加がありますから、原付を利用する高校生が多いというのは、そういったところでも実感しています」と話す。
改めて考えると、山梨県だけでなく、ランキング上位に挙がった和歌山県、鹿児島県、熊本県、奈良県は、「三ない運動」といった二輪車禁止規制を行っておらず、いずれの県でも原付通学が盛んなことも、共通した要因であることが浮かび上がる。

山梨県では高校生の約12%が原付免許を取得

そこで、山梨県の高校における原付の利用状況はどのようになっているか、山梨県教育庁を訪ね、県全体の状況を聞いた。山梨県の県立高校は全日制が28校あり、在学者数は2020年8月末日現在、1万6,290人となっている。
教育庁保健体育課では、「本県では、二輪車の指導方針について、各学校に判断を委ねています。28校中26校で原付の免許取得を認めています。現在、県立高校の全日制全体で、1,942人の生徒が原付免許を保有していて、うち1,642人が原付通学をしています」と話す。
在学者数に占める原付免許保有者の割合は約12%ということになり、原付通学が許されている生徒は約10%に上る。「本県は学区制を廃止したので通学範囲が広く、公共交通機関が不便なため、原付通学を認めないと生徒の学校生活が成り立ちません。交通事故を防ぐための安全教育はもちろんですが、原付の正しい乗車を通じて、社会人としてのマナーも身に着けてほしい」と、同課では話している。

原付免許の取得と安全をしっかり教育――県立北杜高等学校

山梨県の北西部、北杜市にある県立北杜高等学校を朝早く訪ねた。8時を過ぎると、原付通学の生徒が次々に登校してきた。授業が開始される頃には、駐車場に約80台の原付が駐車してあった。

北杜高校の登校時間の様子

北杜高校の登校時間の様子

駐車場は原付でいっぱい

駐車場は原付でいっぱい

安全運転教育もしっかり実施されている

安全運転教育もしっかり実施されている

同校の生徒指導担当教諭は、「この学校には1年から3年まで598人の生徒がいますが、このうち原付免許を保有している生徒は228人、うち原付通学が許可されている生徒が161人います。原付免許の取得はどの生徒も可能ですが、必ず学校に届け出て許可をもらうように指導しています」と話す。学校は、原付免許の取得手続について生徒に説明するなどサポートし、原付講習については近隣の自動車教習所と連携して、何人の生徒がいつ受講を希望しているかなど、情報共有を行っているという。
担当教諭は、「原付での通学については、原則的に学校から自宅まで直線距離で3km以上11km未満の生徒に許可しています。保護者にも出席を求めて“通学許可式”を行い、安全意識を発揚してもらっています。また、運転実技は地元の教習所にお願いして安全運転講習を年に3回実施しています。職員が街頭に立って交通安全指導を行ったり、事故や違反がみられたら、“原付通学者集会”を開いて注意喚起などを行っています」と話している。
山梨県の原付免許取得率の高さについて取材していくうち、同県の高校生の原付通学の多さと、その安全を確保するための取り組みが見えてきた。原付免許は、高校生年代にとっていわば交通社会へのパスポートだ。そうした原付免許の意義・役割りも、今回、改めて考えさせられた。

JAMA「Motorcycle Information」2021年3月号/特集より
本内容をPDFでもご確認いただけます。
PDF:原付免許取得率が全国上位の県 共通する要因は?