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2016.5.31

ここまで進んだバイクの新技術 「高性能エンジン」「操る喜び」の追求

●二輪車の技術開発とは、環境や安全に配慮しながら「操る喜び」を追求するということに尽きます。

●ここ数年の間にも、新しい技術が次々と実を結んでいます。

●日本のバイクがどこまで進化してきたか、国内二輪4社が取り組む最新技術に注目します。

二輪車技術の根底にあるのは「操る楽しさ」の追求

四輪車の世界では、環境対応のエコカーや、自動ブレーキ、車線逸脱防止など、新しいテクノロジーが続々と生み出されています。もちろん二輪車の技術者にとっても安全と環境は大きなテーマですが、四輪車とは異なったアプローチも求められており、二輪車の技術関係者は、「四輪車は、安全性の向上や社会的な要請を受けて、いまや自動運転という方向にさえ進んでいます。しかし二輪車についていえば、その本質はスロットルとパワーの連動であり、操ることを楽しむということに尽きると思います。エンジンの性能向上はもちろん、ライダーの操縦をサポートする新しいシステムも開発されており、ファンライドの領域は急速に進歩してきているといえます」と話しています。
この話を踏まえて、各社が取り組む最新の技術についてみていきます。

世界戦略モデルの“心臓”をつくる――ヤマハ [ヤマハ発動機(株)]

排気量150cc以下の小排気量バイクは、アジアを中心に世界中の人たちの生活コミューターとして爆発的な普及をみせています。市場が沸騰しているだけに、各社の製品にはいっそう競争力が求められています。
ヤマハはそうした世界市場を見据えて、高性能で汎用性のある基本エンジンを開発しました。同社渾身の「BLUE CORE(ブルーコア)」エンジンです。走りの楽しさと、燃費・環境性能を高い次元で両立させる。それが開発担当者に課された目標でした。取り組んだのは、「高効率燃焼」、「高い冷却性」、「ロス低減」の3つです。
開発担当者は、「縦軸に燃費、横軸に性能(パワー)をとって、どちらの軸にも優れたポテンシャルを追求しました。そうすれば、チューニングによってキャラクター(出力特性など)をさまざまに出現させることができ、よりエコロジーなエンジンに仕上げたり、より走りを重視したエンジンに仕上げるなど、多様な味付けが可能です。1つの基本エンジンから製品バリエーションを広げていくことができるんです」と話します。

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小排気量クラスでは、ヤマハとして初めてVVA機構(可変バルブ)を採用し、「高効率燃焼」を実現。「高い冷却性」を実現するためオールアルミ製のシリンダーを採用し、ラジエーターなどの冷却システムもゼロから開発。部品の摩擦低減を随所で図るなど、高い目標をクリアしました。こうした積み重ねにより、従来の同クラスと比べ、燃費を大幅に向上させています。
BLUE COREエンジンは、世界のコミューター市場に挑むヤマハの“心臓”ともいえるものでしょう。

川崎重工の技術を結集したエンジン——カワサキ  [川崎重工業(株)]

2014年11月にイタリア・ミラノショーで発表され、世界の二輪車関係者の目を釘付けにしたカワサキ「Ninja H2R」と「Ninja H2」。これらのモデルには、カワサキがエンジン本体(998cc)とともに自社で設計・製造したスーパーチャージャーが組み込まれています。二輪車の量産大型スポーツにスーパーチャージャーが搭載されたのは世界で初めてです。

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スーパーチャージャーというのは、小さな排気量のエンジンで大きな出力を得るため、より多くの空気を燃焼室に送り込む装置のことです。同種の装置であるターボチャージャーは、排気ガスでタービンを回す仕組みですが、スーパーチャージャーはエンジンの回転で直接インペラを回して空気を送るので、タイムロスのないリニアなパワーを発揮するのが特長です。
カワサキの開発担当者は、「四輪にもスーパーチャージャーはありますが、二輪車用に開発したこのユニットはきわめて小型・軽量なもので、完全オリジナルです。当社のガスタービン部門や航空機部門などと協力して、川崎重工の技術を結集したからこそ実現したものです。これまでにない画期的なエンジンです」と、自負しています。
そのスーパーチャージャーは、エンジンが1分間に1万4,000回転のとき、インペラは(1分間に)13万回転し、1秒間にドラム缶1本分(約200リットル)の空気をエンジンに送り込むことができます。吸入空気の圧力は自然吸気の2.4倍に達して、驚異的なパワーを生み出します。従来のスーパースポーツは、排気量1,000ccクラスで200馬力のパワーを発揮しますが、「Ninja H2R」は一気に300馬力を達成することができました。

走りを存分に楽しめるトラクション制御——スズキ  [スズキ(株)]

MotoGPなどのレーシングマシンで培われてきた電子制御のトラクション・コントロール・システム(TCS)が、数年前から大型スポーツバイクを中心に市販車にも搭載されるようになってきました。
スズキでは2014年6月に国内販売を開始した「V-Strom1000 ABS」に初めてTCSを搭載し、続いて2015年6月に発売した「GSX-S1000 ABS」、「GSX-S1000F ABS」にも採用しました。
そもそもTCSとはどういった技術なのでしょうか。同社でTCSの開発に当たっているエンジニアに説明してもらいました。
「TCSは、エンジンのパワーをいかに効率よくリアタイヤから地面に伝えるか、コンピューターによってコントロールするシステムです。スポーツライディングの好きなライダーなら、バイクがもっている走行性能を、電子制御が介入するまで最大限に楽しめます。また、雨の路面などライダーが思ってもいない局面でリヤタイヤが空転しそうになると、速やかにエンジン出力を落として後輪のスリップを抑制します。もちろんこれによって必ずしも安全を確保できるとはいえませんが、誰もが快適なライディングを楽しめる方向で開発を進めています」
スズキのTCSの場合、車体に5つ配置されたTCセンサーによって情報を集め、1秒間に250回ものきめ細かいエンジン制御を行うことで、滑らかな発進や走行を可能にしているのが特長です。

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スズキの担当者は、安心してスロットルを開けられる感覚は、これまでにない面白さです。バイクを操る楽しさをサポートするという意味で、TCSはいっそう頼もしい機能に進化していくと思います」と話していました。

オートマチックの新しい世界を開拓——ホンダ  [本田技研工業(株)]

デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)は、ギアチェンジを自動で行う画期的なシステムで、二輪車用としてはホンダが世界で初めて実用化した技術です。
2016年2月に国内で発売された「CRF1000L Africa Twin」にもDCTタイプが用意されており、よりオフロードを楽しめる「Gスイッチ」を加えた最新のDCTが搭載されています。

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バイクのオートマチック・トランスミッションというと、スクーターに採用されているベルト式の無段変速(CVT)が一般的ですが、DCTの場合、ギアチェンジそのものを自動化した点にイノベーションがあります。CVTと違って、ギア車特有のダイレクトなシフトアップ、シフトダウンは感覚としてそのままで、左手によるクラッチ操作と、左足によるシフト操作を不要にしたのが特長です。
ホンダのDCTの開発担当者は、「開発当初、いろいろと試すうちに、ライダーはクラッチ操作とシフト操作にかなり神経を使っていることがわかりました。とくにワインディングを走るときなど、無意識にかなり忙しい作業をしています。その作業からライダーを解放すると、純粋にスロットルとブレーキに意識が集中して、バイクの操縦がぐっと面白くなります。『これならいける』と思いました」と振り返ります。
DCTは1-3-5速の奇数段と、2-4-6の偶数段のための2組のクラッチを備えており、2つのクラッチが交互に働くことで駆動力に途切れのない、スムーズで素早い変速を可能にしています。技術的には年々進歩し、より自然なシフトタイミングを検知できるように進化させ、トルクコントロールと連動させたり、走行環境やライダーの気分に合わせて選べるシフトモードを増やすなど、DCTの性能はますます向上しています。

Motorcycle Information 2016年2月号特集より

本内容をPDFでもご確認いただけます。

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